
所 千晴 准教授
所研究室(創造理工学部 環境資源工学科)
所在地:西早稲田キャンパス51号館
研究の進捗報告の場では、物質を粉砕する機器の設計、「2次元回転壁」のシミュレーション、閉山した鉱山で水に含まれる有害物質の分析について発表が行われていました。設計、コンピューターによるシミュレーション、古い鉱山の調査。この多様な内容は、何の研究に関係するのでしょうか?
博士2年の原口大輔さんの説明によると、「対象が水だったり電子機器だったりしますが、平たく言うとすべて分離技術なんです」とのこと。水から有害物質であるヒ素を除去したり、廃棄された電子機器からレアメタルを取りだしてリサイクルしたり。なので、分離のためのシミュレーションから実際の機器の設計、実地調査と幅広い分野が研究対象となっているのですね。有害物質の除去と一口に言っても、ほかの化学物質を大量投与することで中和するのであればまた別の問題が起こってしまう。では、もっと効率的で環境にも影響しないやり方を見つけよう、というのが、所研究室の大きなテーマなのです。
企業からの「こういう現象があるんだけど学術的に解明してほしい」「この物質がこの中から取れなくて困っている」といった依頼に応えるなど「先に現象があって、そこに理論をつける」というタイプの研究が多いため、まずは手を動かし、実際のモノを見ながら学んでいくというアプローチの手法が採られています。3月、新4年生が研究室に配属されたら、とにかくまずなんでもいいから実験してみなさい、現象を見てみなさい、と指導されます。「これをちょっと溶かしてみようとか、砕いてみようとか」そんな大枠が提示されて、実験しながら機器の使い方やノウハウを学ぶのだそうですが、これなら相当のスピードでレベルアップできるのだそうです。
所先生は、ゼミ生の発表の端々で「その実験試料、いくらぐらいするの?」「10kgまでならボンボン買っちゃって!」「××先生の研究室に顕微鏡たくさんあるから借りてきて!」とポンポンと指示やコメントを投げかけ、ラリーのように軽快に発表は進みます。
そして研究室の中だけで勉強するのではなく、学会、ヒアリング、見学にもどんどん出かけます。「東日本大震災の隠れた問題に、鉱山のヒ素の堆積所が決壊してヒ素が流出したというのがあるんです。有害物質で汚染された水の処理もうちの専門なので、実際の現場を見てヒアリングするために、チームのメンバーと2日で3つの鉱山を回って来ますよ!」とエネルギッシュな所先生。「頭も、手も、足も、全部使って解明していく。理系の研究っていうのはそこだと思うんですよね」。
4年生の井澤彩さんも、理論優先ではなく「現場に近い」点に魅力を感じて、所研究室を志望したそうです。「理論を作るというよりは社会と直結した研究中心で、現象解明の部分もすぐに現実的に役立てていこうという方向性です」と語る原口さんは、小学生のころ下水処理場のそばに住んでいて、当時の泡だらけの川面を見て水や環境に興味を持ったといいます。現在は水質もずいぶん改善されてきていますが、企業と研究者とが協力し合って努力を積み重ねてきた結果なのでしょう。環境問題は日々の暮らしの中でも接することの多いテーマで、関心を持っている高校生も多いと思います。所先生、研究室ではどんな学生が歓迎されますか?
「大学3年まではずっと教えられる立場ですが、その中でも自分だったらこうするのになと考えながら学べる人は研究の世界ですごく伸びるんです。もちろん、ちょっとだまされたつもりでやってみようと思える素直な面も必要なんですが、自分なら・・・と能動的に動ける人に来てほしい、そういう人になってほしいと思っています」
技術開発によって環境保護に貢献したい人は、この分野で力を発揮してみませんか?
昼食もそこそこに研究に没頭。よい研究をするにはやっぱり時間が必要で、みんな徹夜で実験したり一緒に過ごすので、みなさん仲がよいそうです。
貴金属、レアメタルを含む各種金属、半金属類を主な対象として、環境浄化および資源循環のための選別・分離技術に取り組んでいます。対象は廃水、汚染土壌、人工廃棄物、鉱石といった、種々の物質が複雑に混ざり合った部分ですが、学術的にも興味深いたくさんの現象に遭遇することができます。たとえば、廃水中の固液界面における有害金属類の反応挙動や、破砕時による人工廃棄物の砕け方など、化学的にも物理的にも理論通りには進まない現象を、各種実験やシミュレーションを駆使して1つずつ解明し、環境浄化・資源循環技術の高度化に役立てています。
4年生・井澤 彩さん
修士2年・綱沢 有輝さん
博士2年・原口 大輔さん
『成長の限界―ローマクラブ「人類の危機」レポート』ドネラ H.メドウズ著/大来 佐武郎監訳(ダイヤモンド社)
『限界を超えて―生きるための選択』ドネラ H.メドウズ ほか著/茅 陽一監訳(ダイヤモンド社)
『成長の限界 人類の選択』デニス・メドウズ 著/枝廣 淳子 訳(ダイヤモンド社)
最初の本には、1970年当時に深刻な問題となりつつあった人口増大や、環境汚染、天然資源の枯渇等々、人類の生存上にきわめて重大な影響を及ぼす問題に対して、回避の道を探索することを目的として組織されたローマクラブにおけるプロジェクト成果がまとめられています。
その20年後に発表された2冊目では、新しいデータを用いながら地球が既に物理的限界を超えてしまったことを示し、強い危機感を述べています。そして最も新しい3冊目では、より分かりやすく、再び警鐘を鳴らしています。
この3冊を読み比べると、1970年以来の30数年間における、人口問題、環境問題、資源問題に対する意識の変遷をみることができます。これから環境問題や資源問題に取り組もうとしているみなさんにはぜひ読んでほしい本です。